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2025.12.17
読了時間目安
5分
起業は、多くの挑戦と学びの連続です。
情熱を持ってスタートしても、理想と現実のギャップに戸惑う場面は誰にでもあります。特に初めての起業では、経験不足や判断ミスから思わぬ壁にぶつかることも少なくありません。とはいえ、失敗は成長の通過点であり、学びの宝庫でもあります。
この記事では、起業家が陥りがちな一般的なミスと、それらを避けるための具体的な対策について解説していきます。

起業は人生を変える挑戦であると同時に、リスクとの戦いでもあります。
多くの起業家が理想と覚悟をもってスタートを切りますが、その道のりは決して平坦ではありません。
中小企業庁の『2023年版 「中小企業白書」』によれば、日本では起業後5年の生存率は約80.7%です。一見高い数字にも思えますが、裏を返せば「5年以内に約2割の事業が市場から姿を消す」ということです。
その主な要因は、資金調達の難しさ・市場ニーズの過小評価・チーム内不和・ビジネスモデルの脆弱さなどが挙げられます。「アイデアに惚れ込みすぎて、数字を見る目を失っていた」という起業家も多いです。熱量が高すぎるがゆえに客観性を欠き、現実とのギャップに気づけない―それが起業の落とし穴です。
失敗は、能力の不足ではなく、経験と判断のズレから起こります。
だからこそ、「なぜ起こるのか」を知り、同じ道を避ける視点が成功への第一歩です。
参考:『2023年版「中小企業白書」』第2節 起業・創業(閲覧日:2025年10月21日)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b2_2_2.html

起業家の失敗には、いくつかの共通パターンがあります。それぞれの背景と本質に触れながら見ていきましょう。
パターン1:ビジョンの曖昧さ
起業初期にありがちなのが、“理想だけが先行し、方向性が定まらない”状態です。
会社のミッションや目指す未来が不明確だと、日々の意思決定や採用の基準までもが揺らぎます。
失敗例)事業拡大中にメンバー間で意見が分かれ、方向転換を迫られたケース。
対策例)チームが再び一丸となれるよう、「誰のどんな問題を解決するか」というビジョンを再定義する。
パターン2:マーケティング不足と顧客理解の浅さ
「いい商品を作れば売れる」という思い込みは、起業家が最も陥りやすい錯覚です。
実際、スタートアップが陥る失敗の約35%は“市場ニーズの欠如”が原因とされています。
失敗例)市場調査を怠った結果、需要が読めずに在庫が山積みになったり、顧客セグメントを誤って早期撤退したりするケース。
対策例)プロダクト設計の前に「誰のどんな不満を解決するのか」を徹底的に検証する。
パターン3:資金繰りの甘さとキャッシュフロー管理
起業失敗の約38%が、資金不足であることがわかっています。初期コストを過小見積もりし、実際の出費が想定を超えて資金が尽きるケースは珍しくありません。
「最初の半年を乗り切れば何とかなるはず…」という感覚では危険です。売上が立つまでには想定以上の期間がかかります。予備資金を多めに確保し、入金と支出のタイムラグを冷静に予測することが、経営継続の生命線になります。
参考:知っておくべきスタートアップの統計(閲覧日:2025年10月21日)https://stripe.com/jp/resources/more/startup-statistics-you-should-know
パターン4:チーム・人材トラブル
創業期に多いのが、感覚や価値観のズレによる人間関係のトラブルです。スタートアップの約14%が、内部対立やスキル不足を理由に頓挫しています。「誰と組むか」は「何をやるか」と同じくらい重要なのです。
情熱だけではなく、互いに補い合えるチーム編成こそが長期成長のカギです。

失敗を避ける近道はありません。しかし「準備」「仕組み」「伴走者」があれば、致命傷を防ぐことはできます。
1. 事業計画を具体化するプロセス
数値目標だけでなく、リスクシナリオを複数パターンで想定しましょう。
たとえば売上が30%下振れした場合、どの支出から削減するのかを事前に決めておけば、判断に迷いません。
2. 資金管理のルール化の徹底
会計知識に不安を持っている起業家が多いですが、キャッシュフロー表を更新するだけでも状況の見える化につながります。税理士や会計士など外部専門家を“顧問”ではなく“参謀”として活用するのも有効です。
3. メンターやコミュニティの存在
経験者との月1の面談や、同業起業家のグループに参加することで、判断の精度と精神的な安定は格段に高まります。
たとえば、自治体や商工会議所などが実施している創業相談窓口・起業セミナー・個別メンタリングを活用したり、支援機関やインキュベーション施設が主催する起業家向け交流会・勉強会に参加するのも有効です。
「一人で抱え込まず、わからないことは支援機関や先輩起業家に早めに相談する」ことを行動ルールにしておくと、孤独を感じやすい経営者でも、外部とつながる機会を自然と増やしていけます。
4. 改善サイクル(PDCA)を止めない
失敗を“データ”として記録し、次の戦略に転用する姿勢こそ、事業の成熟度を決める要素です。「失敗を分析し、行動を変えた人」が次の成功者になっています。

起業に失敗した後、多くの人は「自分には向いていなかった」と感じることでしょう。
しかし実際には、失敗を経て再び挑戦し、より堅実なビジネスやキャリアを築いている起業家は少なくありません。
ここでは、借金の問題への向き合い方、心の立て直し方、再チャレンジまでのステップに焦点を当てた、起業家たちのモデルケースを紹介します。
1人目は、脱サラして店舗系ビジネスを立ち上げたものの、1年で撤退を決断した起業家のケースです。
開業前は「このくらい借りられれば何とかなるはず」と資金計画を立てていましたが、実際の調達額は想定より少なく、オープン後も客数が伸びずに売上が追いつきませんでした。「あの時点で一度立ち止まり、事業計画を見直すべきだった」と本人は振り返っています。
〈エピソードから学べること〉
・事業開始時の資金計画の見直し
・再計画の重要性
たとえ失敗してしまったとしても、銀行や金融機関、創業支援機関の再チャレンジ枠の活用や、返済計画の見直し、国や自治体の制度(破産手続き・再創業支援など)もあるため「きちんと専門家に相談する」ことが大切です。
〈専門家コメント〉

㈱ツクリエ マネージャー
中小企業診断士
三草 宏樹
事業開始時の資金計画は、最もつまずきやすいポイントです。「具体的に何にいくら必要で、調達した結果どれだけの収支が見込まれるのか」を冷静に見極めないまま開業すると、計画と実際の調達額が大きく乖離し、早期に資金が枯渇するリスクが高まります。例えば、想定1,500万円の事業を実際の調達額500万円で始めてしまう、といったケースはまさにその典型です。
一方で、“余裕を見て多めに借りておく”という発想も同様に危険です。返済負担が重くなり、事業の自由度を奪ってしまうからです。重要なのは、収支計画と資金計画を現実的に組み立てた上で、自己資金・補助金・融資・出資等をどう組み合わせるかを丁寧に設計すること。資金調達は目的ではなく、事業を実現するための手段であることを忘れないことが、持続的な経営につながります。
2人目は、一度目の起業でサービス事業を立ち上げたものの市場とのミスマッチで撤退し、その後は会社員として働きながら再度起業に備えた起業家のケースです。
一度目の失敗後は「起業には向いていないのでは…」と感じた時期もありましたが、転職先で様々な経験を積み、改めて自分の得意分野や強みを整理し直し再度起業を果たしました。本人は「最初の失敗がなければ、どの市場で戦うべきかもわからないままだった」と語っています。
〈エピソードから学べること〉
・起業だけに固執せず、就業や転職など柔軟なキャリアの切り替えも視野に入れる
・失敗体験そのものが次のビジネスの“資産”や成功確率アップにつながる
起業で一度つまずいたとしても、「就職・転職 → スキル・資金の再蓄積 → 再起業」というルートは決して珍しくありません。時間をかけて土台を整え直すことが、結果的に長く続く事業づくりにつながります。

㈱ツクリエ マネージャー
中小企業診断士
三草 宏樹
複数回の挑戦を経て成功に至る人に共通しているのは、「なぜ失敗したのか」を感覚ではなくプロセスで振り返る姿勢です。再挑戦の起点となるのは、WILL・CAN・NEEDの3つを丁寧に見直すこと。情熱を持って続けられる領域か(WILL)、自分の強みや能力が発揮できるか(CAN)、そして市場に十分なニーズがあるか(NEED)。この3つの重なりが曖昧なままでは、再び事業が揺らぎやすくなります。
私が支援の中で感じるのは、失敗そのものよりも「意思決定の根拠が不十分なまま進んでしまうこと」のほうが次の挑戦の障害になるという点です。「誰のどのような課題を解決する商品(サービス)であり、そこにお金を払ってくれる顧客は存在するか」という問いを掘り下げていくと、提供価値・顧客像・収益の取り方が整理され、次に向けた意思決定の軸が自然と揃っていきます。成否に一喜一憂するより、意思決定の質を高めることこそが、複数回挑戦する起業家の強さだと感じています。
3人目は、多額の負債を抱えながらも、不屈の精神で再起した起業家のエピソードです。
一時は「もう二度と立ち上がれないのではないか」と感じていたものの、原因は自分の意思決定によるものだと受け止め、覚悟を決めたことが転機になりました。
それからは過去の失敗要因を一つひとつ洗い出し、自分なりの経営原則を明文化。
小さなビジネスから再スタートし、徐々に事業規模を拡大させていきました。
〈エピソードから学べること〉
・過去や失敗を人や環境のせいにせず、覚悟を決めることが再起の原動力になる
・困難な時こそ、ポジティブに挑戦する
負債の大きさや状況は人それぞれですが、「ここからどう生きるか」を決め直すプロセスは、どの起業家にも共通しています。
失敗をきっかけに自分の軸を見つめ直し、次の一歩を具体的な行動に落とし込むことが、再起のスタートラインになります。

㈱ツクリエ マネージャー
中小企業診断士
三草 宏樹
大きな困難から立ち直った起業家に共通しているのは、起きたことを「自分ごとしてどう受け止めるか」を逃げずに考える姿勢です。うまくいかなかった理由を外部だけに求めてしまうと、改善の糸口が見えにくくなり、次の挑戦にもつながりにくくなります。
支援の現場でも感じるのは、“自分にできる部分から丁寧に見直してみよう”という姿勢が、結果的に再起のスピードを早めてくれるという点です。市場環境や外部要因は変えられませんが、自分の行動や取り組み方は必ず変えられます。困難な局面こそ、視点を少し内側に向け、「次にどう活かすか」を考えることが、次の挑戦への確かな一歩につながります。

Q1. 起業で失敗した後、再チャレンジは可能ですか?
もちろん可能です。再起を果たした起業家の多くは、初回の失敗を“学びのデータ”として活用しています。最初の失敗がなければ得られなかった洞察が、次の成功を支えます。
Q2. 借金や信用情報が心配です。どうすればいいですか?
金融機関は近年、再挑戦する起業家への寛容さを高めています。
地域信用金庫や創業支援機関に相談し、再チャレンジ枠や補助金制度を活用するのが現実的です。
Q3. 再起に向けて最初に取り組むべきことは?
失敗の原因を主観ではなく、プロセスに沿って具体的に振り返ることです。何が欠けていたのか、どの段階で判断を誤ったのかを整理することで、成長の方向性が見えてくるでしょう。

失敗は、終わりではありません。次のステージに進むための“通過点”です。
起業で成功する人とそうでない人の差は、才能ではなく「学びからのリカバリー力」です。課題を直視し、データで捉え、次の行動を変えられる人が、結果的に長く生き残ります。
挑戦とは、本質的に不確実なものです。
だからこそ、失敗を怖れず進み、経験を糧に変えていく姿勢こそ、起業家の最大の武器なのです。あなたの挑戦が、次の成功へとつながることを信じています。
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