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2024.07.16
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2022年11月政府は「スタートアップ育成5か年計画」を発表した。起業支援業界は、急速に変化する経済環境や技術革新の波に乗り、多くの企業家やスタートアップが新たなビジネスアイデアを実現するための重要な支えとなると考えられている。政府や民間企業も、このトレンドに対応すべく様々な支援策を打ち出し、起業エコシステムの整備を進められている。
そんな中、東京・名古屋・大阪・京都と全国展開する「StartupSide」や「Startup Hub Tokyo 丸の内」「Kawasaki-NEDO Innovation Center」「産業交流センターMegriba」などの全国のインキュベーションや、「東京都ベンチャー技術大賞」や「TokyoものづくりMovement」「山梨アクセラレーションプログラム」などのスタートアップ支援プログラム、「JAPAN Connect Initiative」や「GLOBAL STARTUPS PITCH in Japan」などグローバルなアクセラレーションの企画運営、「明治ビジネスチャレンジ」や「ミライクルラボ」での起業家教育事業を行い、飛躍的な成長を遂げている起業支援会社を起業し経営するのが鈴木英樹さんだ。
※ Startup Hub Tokyo 丸の内 / Kawasaki-NEDO Innovation Center / 産業交流センターMegriba は受託施設
※ 東京都ベンチャー技術大賞 / TokyoものづくりMovement / 山梨アクセラレーションプログラム / 明治ビジネスチャレンジ は受託事業
アントレプレナーシップを持った生粋の営業マンが、起業支援のパイオニアへ。
鈴木さんは、ポストバブルの92年に社会人になる。「全体が見えないから」と1,000人以上の会社は避け、繊維商材を扱う商社で営業をされていた。アントレプレナーシップを持った生粋の営業マンで、営業成績もトップクラスだった。しかし90年代は、繊維産業も衰退。モノが売れなくなり、同業他社が在庫を抱えて潰れていくのを目の当たりにし、「このままでは家族を養えない」とキャリアに限界を感じたという。そこで、モノの商売から知的財産や情報の世界への転職を考え、コンサル会社で修行期間を経て2002年に大阪市の産業支援拠点で起業支援を担当しインキュベーションの世界に足を踏み入れた。当時は中小企業支援がメインで起業支援は少なく、起業支援分野での可能性を感じていたという。
2015年、起業家に寄り添う「スタートアップサイド」な起業支援会社「ツクリエ」を株式会社として立ち上げる。施設のハードの運営にとどまらず、プログラムやイベント、ネットワーキングなどソフトの支援サービスも提供し、様々な起業家、起業家予備軍の多種多様な課題を、それぞれの起業家に寄り添い解決する、起業支援のプロフェッショナルとなっていった。大学など研究機関との連携で起業家教育にも取り組み、アントレプレナーシップを持った生粋の営業マンは、日本における起業支援のパイオニアへと飛躍する。
鈴木 英樹 (Suzuki Hideki)
商社、コンサル会社を経て、2002年大阪市の起業支援施設に勤務、以後インキュベーション業務に係る。2006年テクノロジーシードインキュベーション(株)(TSI)入社、2009年TSI取締役、 2015年(株)ツクリエ設立、代表取締役就任。ファンド運営、投資育成、起業施設運営を多数手がけるとともに、自らもベンチャー立ち上げと経営を複数経験し起業支援のパイオニアの道を歩む。
当時の起業支援というと、コンサルタントが上から目線で指導するような場面も多かった。リスクをとって頑張っているのは起業家なのに。行政機関での立場ではなく、民間企業の立場で起業支援をやってみたいと思ったがやり方が分からず、とりあえずは自分も起業しようと会社を立ち上げた。その会社がツクリエの前身となった。しかし、起業はしたもののうまくはいかず、わずか半年で資金は尽き失敗。家族を養うために再就職は行ったが、起業自体はあきらめてはおらず「いつかまたやってやろう」と会社を廃業せず休業とした。
それから10年後。前身の会社をツクリエに改名し再スタート。当初は私を含め3人の仲間で開始。2016-17年、会社を大きくしていこうと考えていた頃、アメリカで起業家向けのコワーキングスペースを運営するWE WORKが話題になっていた。いよいよ日本進出するという。日本に来る前にやらねばと事業計画の策定を行い、出資や融資により資金を調達。18年5月から大阪のインキュベーション施設「オギャーズ梅田(現:Startupside Osaka)」を開設し事業の拡大に舵をきった。
これまでの3つのターニングポイントがあった。1つ目は2005年。ツクリエの前身となる会社を休業し、再就職先を探していた。特に、お金を扱う仕事に興味があった。
そんな中、大阪のクリエイターに投資するファンドの立ち上げと運用マネージャーの求人広告を見つけた。広告主は大学発ベンチャーの育成支援事業を行うテクノロジーシードインキュベーション株式会社(以降TSI。現在はツクリエが吸収合併)。元々、音楽も映画も大好きでクリエイターやアーティストには親近感があった。同時にお金のことも学べるのならと応募したところ、営業マン気質が評価されプロジェクトに参画。持ち前のアントレプレナーシップ気質で業務を追行する中、キーマンとになる何名かの仲間と出会う事になる。
2つ目のターニングポイントは、コンテンツ・クリエイティブ分野特化型インキュベーション施設「東京コンテンツインキュベーションセンター(以降TCIC)」の運営だ。08年に東京都が中野新橋にTCICをつくるにあたり、運営受託先を探しているという話がTSIに来た。コンテンツファンドと大阪での拠点運営の両方の経験が活かせると思い、自ら手を挙げて応募、採択された。ファンドをやりながら同時にインキュベーション施設の運営も行う事になった
TCICでは、運営側の執務室のドアは常に開け放ち、いつでも話しかけられる環境をつくった。定期的な面談以外にも何度も入居者の相談にのり、密なつながりをつくることをめざした。これは大阪でのクリエイター支援の経験で、経営知識を指導するだけでなく、人としてクリエイターに寄り添う形で支援を行うことが大事だと感じていたからだ。
こういった取り組みから入居企業の売上アップに貢献し、売上額100億円を突破するバレットグループ株式会社や、東証マザーズに株式上場する株式会社メタップスホールディングス(当時:イーファクター株式会社)の輩出など成功例も出来てきた。そんな実績を見て、他の自治体からも依頼が来るようになり、徐々に運営する施設が増えていった。
しかし、ファンドとインキュベーション施設運営では仕事の性質が違う。ファンドは1匹狼でも仕事はできるが、インキュベーションはチームでやった方がよく、求められるスタッフの適性も変わってくる。インキュベーションを再現性あるサービスとして確立し、スケールするための組織をつくる必要があった。そこで、2015年に起業支援を軸とした株式会社ツクリエを誕生させることになる。
3つ目のターニングポイントは、現役員となるスタッフとの出会いとStartup Hub Tokyoの受託だ。2016年夏、Startup Hub Tokyoの運営事業者公募にTSIとして応募(*当時ツクリエは入札資格を有していなかった)し、採択される。
当時はまだ固い印象の行政施設が多い中、「起業をもっと身近に、特別な選択ではない」というブランディングを行うため、行政としてのルールは抑えつつも、スタッフはノーネクタイを徹底するなどカジュアルでオープンな雰囲気を意識的につくった。2018年からはツクリエで受託し運営を続けている。
これまで全国約30か所の施設運営や、年間概算800本を超えるイベント運営を行っているが、これらの多くはStartup Hub Tokyoの実績もあり業務を頂けている。
東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC) PHOTO:@JUMPEITAINAKA
多様な専門性や価値観を持ったインキュベーションのスタッフ
事業を行う上で2つの事にこだわっている。1つはスタートアップサイドに立つこと。お客様をスタートアップと考えた時、最初にどこに相談すればいいかを明確に解決するサービスは、現在の日本には見当たらない。地域を問わず、起業家と最初の一歩を共に歩めるスタートアップ側に寄り添ったサービスの提供をしていきたい。
もう1つのこだわりが、プレイヤーがプレイヤーを支援するという「経営エコシステム(循環)」。現状、起業支援を行う大手でも提供しているのはコンサルティングでしかない。知識や理論を教えてもらうのはもちろんありがたいだろうが、プレイヤーとしての経験を持ち、同じ目線で親身に話を聞いてくれる人の「がんばろうよ」という言葉の方がよっぽど嬉しかったりする。起業支援しながらも、自ら事業にチャレンジする人が揃い、起業家に寄り添いながら本質的な相談相手になる。そしてその発展形として協業仲間にもなれるブランドにしたい。
まず、日本のローカルに対しての使命を感じている。日本のどの地域にも平等に起業の機会を提供するサービスをしたい。体感として、地方は起業から切実に隔離されていると感じていた。そこで、2023年から24年にかけて起業支援を行う全国の自治体から起業支援の現状を伺うアンケートを独自で行った。アンケートの回答数は想定以上。都心部と地方での意識やサポートの状況には大きな違いがあり、地方における起業環境の厳しさを如実に表す実態が確認できた。
私自身が地方出身である。地方で活動する人材の才能と熱意は目の当たりにしてきた。都会に出たくとも、家庭・経済・健康等何らかの理由で出られない人も多いだろう。だからこそ地方でも都心部と同様のサービスが受けることができ、「あそこに相談したら起業できる」と思ってもらえるサービスをやりたいと考えている。地方の文化や特性を理解し、地域ごとにカスタマイズした支援プログラムの提供、自治体や教育機関と連携したアントレプレナーシップ教育への取組みを行い、実績とノウハウ、ナレッジを蓄積していく。これらのノウハウやナレッジを、デジタルテクノロジーを活用することで時間や距離を超えて起業家に提供していきたい。起業家は情報が欲しい時にいつでも知ることができ、相談することができ、全国どこにいてもツクリエに相談すれば起業できる。ビジネスの成長の速さと高さも倍増する。そういう世界をつくる。
一方、デジタルにはないアナログな関係も必要だ。それは全国の運営施設でリアルに保管する、そんなサービスを構築したいと考え現在進めているところだ。起業家が集うシェアハウスや飲食店もやってみたい。デジタルで拡張性を持たし、アナログで温かみを出す。地域を問わず起業家に寄り添い、最初の一歩を共に歩めるスタートアップサイドなサービスだ。
次にグローバルのプログラムの強化をしていきたいと考えている。人口減少する日本においてスケールするにはグローバル市場を取り込む必要がある。全世界を対象としながらも、日本のインキュベーションとの連携がまだまだ弱い、アフリカ、南米、アジアといった成長市場、いわゆるグローバルサウスエリアに特に着目し、現地のインキュベーターやアクセラレーターと連携してスタートアップ支援の強化を行っていく。
競合は怖い。しかし参考にはするがベンチマークはしない。競争しない独自の道をつくり進んでいく。スタートアップ支援を目的とするか手段とするか。多くのスタートアップ支援は、オープンイノベーションの手段として実施される。我々はスタートアップ支援を目的としてオープンイノベーションを手段ととらえる。あくまでスタートアップサイドで物事を考えながら、我々自身もあがいてやっていることが大切じゃないかと考えている。
国内ローカルの視察
チュニジア大学でのプログラムの様子
株式会社ツクリエ
住所:〒101-0064東京都千代田区神田猿楽町2-8-11 VORT水道橋Ⅲ 6階 (東京本社オフィス)
電話:03-4405-1357 (東京本社オフィス)
https://tsucrea.com
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