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2026.10.09
読了時間目安
6分
起業準備中〜立ち上げ初期の方に向けて、ピッチの基本を整理する「起業家ピッチの教科書」シリーズ。
第3弾のテーマは、「伝わるピッチ資料は『引き算』で完成する」です。
前回vol.2では、10枚前後のピッチ資料の基本構成をお届けしました。型に沿ってたたき台を作ってみたものの、
「気づけば1枚に文字が詰まりすぎている」
「情報を足すほど、かえって伝わらなくなる気がする」
と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、①なぜ足し算で失敗するのか、②引き算のルール、③削る判断軸とその避難先、の3点を整理します。ピッチ資料は“盛る”より“絞る”で完成に近づきます。10枚のたたき台を、伝わる資料へ磨き上げていきましょう。

資料づくりで手が止まるのは、「何を足すか」で悩んでいるときではないでしょうか。しかし実際には、足し算こそが伝わらない資料をつくる原因になりがちです。起業初期の方がハマりやすい罠は、次の3つです。
・全部入れたい欲
苦労して考えた事業だからこそ、どの情報も大切に見える。
・専門用語で安心したい欲
正確に書こうとするほど言葉が硬くなり、聞き手には届かなくなる。
・文字で埋めると伝わった気がする錯覚
余白が不安で、つい説明文を書き足してしまう。
聞き手は、5分や10分という短い時間で、初めて聞く事業を理解しようとしています。情報が増えるほど処理が追いつかなくなり、「結局、何が言いたいのだろう」という状態に陥ってしまうのです。
前提として押さえておきたいのは、ピッチは資料単体で完結させるものではない、ということです。資料は口頭の説明と質疑応答とセットで成り立ちます。「話す内容の見出しをスライドに置く」くらいの感覚が、ちょうど良いバランスです。

最初に押さえたいのが、「1枚のスライドで伝える主張は1つだけ」という原則です。
チェック方法はかんたんです。スライドが「課題」「市場」「ビジネスモデル」といった“見出し語”になっていたら、そのスライドはまだメッセージが決まっていないサインです。
おすすめは、そのスライドで言いたいことを“一文”にしてしまうことです。
スライドにタイトルをつける場合は、その一文をそのまま使う方法もあります。
・見出し語:課題
・一文にすると:中小企業の◯%が、請求書処理に月20時間を使っている
一文にすると、そのスライドで何を言いたいのかが自分でもはっきりします。
スライドにタイトルをつけない場合でも、“そのスライドで言いたい一言”を先に決めておくと、内容がぶれません。
まずは1枚ずつ、“言いたい一言”を書き出してみましょう。

伝えるメッセージが決まったら、次は中身の量を絞ります。
迷ったときに確認したい、3つの数量ルールです。
②-1:要素は3つまで
1枚に載せるブロック(図・箇条書き・グラフなど)は最大3つまで。
②-2:数字は1〜2個まで
そのスライドで覚えておいてほしい数字だけを残す。
②-3:色は3色まで
使う色は、ベース(黒・グレー)+アクセント(コーポレートカラー)+強調の3色までにする。
たとえば市場のスライドで、Before・Afterの要素と数字を比べてみましょう。
Before:
市場規模・成長率・地域別内訳・競合シェア・自社目標をスライド1枚に羅列。
After:
「市場は年◯%で伸びている」というメッセージを置き、市場規模と成長率の2つだけを残す。

Beforeは情報が多いぶん親切に見えますが、どれが主役か分からず記憶に残りません。
Afterなら、数字が1つに絞られているので、聞き手も覚えやすくなります。
なお文字サイズは、「会場の後方からも読めるか」を基準に考えましょう。目安は24pt以上です。それ以下でないと収まらない場合は、文字量が多すぎるサインです。
要素が3つに収まらないときは、スライドを分けることも検討しましょう。無理に1枚へ詰め込むより、2枚に分けたほうが伝わりやすくなります。

ルールをふまえても、「どれも大事に見えて削れない」ということもあるでしょう。そんなときは、次の3つの点を判断軸にしてください。
①そのスライドの主張に、直結する情報か
②聞き手にとって、初めて知る情報か(知っている前提の説明は削れます)
③口頭で補足できないか(話せば済むことは、書かなくても構いません)
3つとも当てはまらなければ、削って問題ありません。削除候補になりやすいのは、細かい補足、内訳の詳細、「圧倒的な」「革新的な」などの形容詞、聞き手が知っている用語の定義などです。
大切なのは、削った要素は捨てるのではなく“避難させる”という考え方です。
要素の避難先は次の3つです。
・バックアップスライド(付録)
本編の後ろに置き、質疑応答で必要になったら見せる。
・別資料
詳細な事業計画書やデータ集にまとめ、面談後に共有する。
・想定問答リスト
口頭で答えられるよう、手元のメモに残しておく。
「消すのではなく、場所を変えるだけ」と考えると、引き算のハードルはぐっと下がるはずです。
〈専門家コメント〉

㈱ツクリエ マネージャー
中小企業診断士
三草 宏樹
ピッチ資料の「引き算」は、資料を見やすくするだけでなく、質疑応答をより有意義にする効果もあります。
すべてを本編で説明し切るのではなく、例えば競合に対する優位性や収益化の考え方など、聞き手が関心を持ちそうな論点については、要点だけを示し、詳細はバックアップスライドに置いておく。あえて少し「余白」を残すことで、聞き手からの質問も生まれやすくなります。
そこで質問されたときに、「まさにその点について、こちらをご覧ください」と、あらかじめ準備していたデータや分析を示すことができれば、単に質問に答えるだけでなく、その事業についてどこまで深く検討し、準備しているかを伝える機会にもなります。
私がピッチ資料の作成を支援する際も、本編を作成して終わりではなく、「この質問が来たら、このスライドで答える」というところまで準備することをおすすめしています。削った情報は捨てるのではなく、質疑応答で使う“手札”として持っておく。そう考えると、「引き算」は単に情報を減らす作業ではなく、質疑応答まで含めてピッチ全体を設計する作業だと言えます。

仕上げの段階で、次の7項目を確認してみましょう。
□そのスライドで言いたいことが、一文で伝わるか
□1枚に載せた要素は3つ以内か
□使っている数字は1〜2個に絞られているか
□色は3色以内か
□会場の後方(一番後ろの席)からも読める大きさか(目安:24pt以上)
□1枚あたりの説明が30〜60秒で収まるか
□最後の1枚で「次に何をしてほしいか」が明確か
特に見落としやすいのが、6つ目の説明時間です。10枚で5分のピッチなら、1枚あたり30秒程度しか話せません。声に出して読み上げて、時間内に収まらないスライドがあれば、そこが削りどころです。
下記の引き算チェックリストもぜひ活用してみてください。

削る作業は、気合や勇気で乗り切るものではありません。
この記事で紹介したルールをふまえ、チェックリストを活用すれば、毎回悩まずに引き算ができます。
まずはvol.2で作った10枚から1枚を選び、タイトルを一文に書き直すところから始めてみてください。
〈専門家コメント〉

㈱ツクリエ マネージャー
中小企業診断士
三草 宏樹
大切なのは、ピッチ資料を「一度で完成させるもの」と考えないことです。
実際に人に話してみると、毎回同じところで質問を受けたり、自分では重要だと思っていた部分にあまり反応がなかったりします。こうした聞き手の反応は、単なるピッチの評価ではなく、事業を見直すための貴重な材料です。
「なぜここが伝わらなかったのか」「なぜこの点を何度も聞かれるのか」と考えながら、残す情報や使う言葉、説明の順番を見直していく。その過程で、顧客像や提供価値、自社の強みなど、事業そのものの曖昧さが見えてくることも少なくありません。
ピッチ資料を磨くことは、見栄えのよいスライドをつくることではなく、自分の事業を「相手に伝わる形」まで整理することでもあります。最初から完璧な資料を目指すより、まず人に話し、その反応をもとに引き算と修正を重ねる。そうして何度も磨き直すうちに、ピッチだけでなく、事業そのものも少しずつ明確になっていきます。
次回vol.4では、「投資家ピッチとビジコンピッチの違い」をテーマに、目的によって残すべき要素・削る要素がどう変わるかを紹介します。
Q.ピッチ資料は何枚くらいが目安ですか?
A.10枚前後を基本に、イベントの持ち時間に合わせて増減させましょう。時間が短ければ要点だけに削り、長ければ補足を足す、という調整をするのがおすすめです。
Q.ピッチ資料に最低限入れるべき要素は?
A.「課題・解決策・市場・ビジネスモデル・チーム」の5つが基本です。まずはこの5枚を軸に、競合・実績・今後の計画を加えていくと組み立てやすくなります。
Q.スライドが多すぎる・少なすぎるときはどうすればいいですか?
A.まず10枚の骨子を作り、そこから調整します。5分なら「課題・解決策・チーム」に絞り、10〜15分なら市場や数字の補足を足す、という考え方が目安です。
Q.ピッチ資料について相談をしたいときは、どこに頼ればいいですか?
A.自治体の創業支援窓口、商工会・商工会議所、インキュベーション施設・アクセラレータなどが相談先になります。資料のたたき台を持参すると、相談がスムーズです。
Q.デモや動画は用意したほうがいいですか?
A.できる限り用意するのがおすすめです。特に短い動画は、サービスの価値が直感的に伝わり、審査員や投資家の理解が早くなります。言葉での説明を補う強力な武器になります。
【vol.1】ピッチって結局何?起業家が最初に知っておくべき基礎知識
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